長野県に八ヶ岳という山がある。その八ヶ岳への登山口である美濃戸口から,茅野市街に続く街道沿い、標高が1000mほどに、尖石(とがりいし)遺跡という縄文時代の遺跡があり、そこに茅野市尖石縄文考古博物館がある。先日、機会があり訪問した。この時期の八ヶ岳山麓は非日常的な空間でもある。
いつも思うのだが、八ヶ岳の裾野の稜線のなだらかさは芸術的でもある。主峰の赤岳の山頂は登山者が落石に留意して上る程の急こう配だが、裾野の広がり感はその対照をなしている。この博物館には、「縄文のビーナス」という国宝指定された土偶と、同じく国宝指定された「仮面の女神」という土偶が陳列されている。考古学にロマンを感じる方には魅力的な聖地である。
縄文時代は、その始まりが一般的に1万6000±850年前、終わりが概ね約3000年前 とされている。その後の農耕文化が栄える弥生時代と比べて、狩猟が中心で定住せず、自由に居住地を移っていた。自然と共生している感覚が強い。日本の考古学研究は、1877年(明治10年)に来日した明治政府のお雇い外国人であるエドワード・S・モース(Edward Sylvester Morse,1838-1925)らによって研究が開始された。
縄文的な生き方ができればと時々感じる。ニュースで心を痛める事件を知るたびに憂鬱になるが、そうした事件が、縄文時代は少なかったそうである。農耕文化が始まり、田畑の所有権が定まった弥生時代から、利権を巡っての事件が発生する。
日本の産業構造が大きく変わり、価値を生み出す産業軸が多様に変化し始めている。働き手もどこで、自らの力を発揮するのが最適なのかと考える時代でもある。弥生時代のように、その地にとどまり、積み上げていくことも大切な価値であるが、恵みの可能性が多そうな機会にむけて積極的に移動していくことの価値も高まる。「カモメになったペンギン」(John P.Kotter,2007)のように。
労働を考える時に、従来のしがらみに縛られ過ぎずに、柔軟に活躍の場を選択する機会が多かった縄文的な働き方は、キャリアを設計する上で大切な価値観だと、はるか遠い長い年月を経てきた「縄文のビーナス」と対面しながら考える。人事的には、組織横断的探索型人材と組織内深化型の人材の二つの系統がある。従来、日本企業は相対的に、モノづくりの事業を中心に、仕事を深く掘り下げ、極めていくといった深化型人材の育成に卓越したと思う。その一方で、ネットワークを広げていく探索型人材育成と評価には課題もあった。縄文人のような探索型人材との組合せのバランスも今後必要な人事施策でもある。
熱心に土偶をみていると、博物館の案内の方が説明をしてくれる。「縄文のビーナス」と「仮面の女神」は頻繁に出張があるとのこと。全国の企画展示の場に招かれ忙しい。出張中は、レプリカがその役割を担う。土偶のみなさんも、この令和の世になっても定住せず、全国を飛び回って働いる。時には経験を活かしながらも、住み慣れた土地を離れ、新しい可能性に挑戦するのも刺激的である。
思索 組織内深化型人材について
日本企業の人材育成は、ある特定の組織に適合する人材を育てていくという組織内深化型人材を育てていく傾向が強い。特定の職種というより、特定の組織に適合した人材を長期的な期間を使って育て上げる人事施策が主流である。同一組織では、異なる職種をいくつか経験するが、職種に関しても同一組織内で独特にカスタマイズされた職種を担うことになる。多くの日本企業は、企業内部で人材育成を行う為に、人事制度や賃金体系もそれに適合するように設計されている。中途採用者が、他国に比べて低い比率で推移してきたこともこうした企業内部の労働市場のメカニズムが色濃く反映されていることが背景のひとつになってきていた。
設問1
探索型人材と深化型人材について自分の言葉で定義してください。あなたの今までの学校生活や日常生活において、あなた自身はどちらのタイプだと思いますか。またどうしてそのように考えるのでしょうか。
設問2
あなたは企業経営者であると仮定しましょう。もし、就職先が決まっている会社があれば、その会社の経営者の立場にたって、探索型人材、深化型人材をそれぞれどのような考え方で活用したいと考えますか。根拠も述べてください。
2024年10月11日 竹内上人
(注釈)
今まで10年間ほど、毎週末に人事の現場で体験した出来事を中心に短いコラムを書き重ねてきた。こうしたコラムを関連するコラム同士を「仕事」、「リーダーシップ」、「チームビルディング」、「コミュニケーション」、「セルフマネジメント」、「キャリア」、「新しいチームに入る時」という7つのカテゴリーに分けて、各カテゴリーを5話ずつ抽出して、編纂を試みた。この編纂は、それぞれのコラムをエピソードとして、コラムで取り上げたキーワードについて解説的に取り上げることと、コラムに関連した設問を2つずつ問いかけることによって、コラムに関する読者の考えを深めてもらうための構成にしてある。
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